借金などのマイナスの財産も相続の対象になります

現金や預貯金や不動産といったプラスの財産だけでなく、借金などのマイナスの財産も、相続財産に含まれます。

亡くなった方(被相続人といいます)の遺産をよく調べたら借金が出てきた、という話は決して珍しくありません。

したがって、早まって単純承認(プラスの財産もマイナスの財産もすべて相続する)をしてしまう前に、よく相続財産を調査する必要があります。

きちんと相続財産を調査しないで単純承認してしまうと、ほんのわずかなプラスの財産に対して、膨大な額のマイナスの財産を引き継ぐことになる恐れがあります。

故人の借金を調べる

故人の借金を調べるには、以下の方法を、すべて行うようにします。

故人の借金を調べる方法1 自宅や事務所にある紙の資料を調べる

自宅や仕事を行っていた事務所などで、以下のような書類を調べましょう。

  • 郵便物(督促状・催告書などが届いていないか)
  • 契約書
  • クレジットカードの明細
  • ATMでの取引明細
  • 通帳(貸金業者からの入金記録や返済の記録があるか確認)
  • 車検証(自動車ローンが残っている可能性)

これらのものを探し、借金の手がかりとなるものがないかどうか、調べます。

故人の借金を調べる方法2 不動産の登記簿を調べる

被相続人が所有していた不動産の登記簿に、抵当権、根抵当権、質権等の担保権の記載があった場合は、借金や保証債務の存在が疑われます。

ただし、抵当権などは抹消登記を申請しなければ自然に消えたりはしないので、すでの完済しているのに残ってしまっていることもあります。

抵当権などが設定されていた場合、登記簿に記載されている抵当権者に連絡して、現在の返済状況を確認することができます。

故人の借金を調べる方法3 信用情報開示請求を行う

昨今、銀行、信用金庫、信用組合、クレジットカード会社、信販会社、消費者金融業者は、そのほとんどが以下の3つの信用情報機関のどれか1つに加盟しています。

  • CIC(株式会社シー・アイ・シー)
  • JICC(株式会社日本信用情報機構)
  • 全銀協(一般社団法人全国銀行協会、全国銀行個人信用情報センター)

各信用情報機関は、個人ごとの借入れ・返済の状況、クレジットカードの利用履歴などの情報を持っています。

本人が亡くなっている場合は、これらの機関に対して、相続人からの信用情報開示請求が可能です。

信用情報開示請求で、被相続人のすべての借金がわかるとは断定できませんが、闇金融業者など以外からの、合法的な金融機関などからの借金についてはほとんど把握できるので、被相続人の債務調査のためには、有効な方法です。

当センターでは、信用情報開示請求の代行サービスを提供しています。詳しくは、借金・債務の調査(信用情報開示請求)代行サービスをご覧ください。

個人間の借金を見つけるのは難しい

個人間の借金、たとえば友人や知人からの借金は、信用情報機関に開示請求を行っても、把握できません。心当たりのある友人や知人や、その周辺の人々に聞いてみるなど、地道な調査が必要です。

しかし、単純承認をしてしまった後に、これらの借金が見つかった場合、返済の義務が生じてしまいますので、調査も十分な時間と手間をかけて慎重に行うべきです。

個人間の借金があるかどうか疑わしい場合で、3ヶ月以内に十分な調査ができない場合は、本来であれば相続開始から3ヶ月以内に行わなければいけない相続放棄や限定承認の申述を、家庭裁判所に申し立てることにより、延期してもらうことすることも可能です。

3ヶ月の期限が迫っているからといって慌てて単純承認をすることのように、慎重に判断してください。

相続財産に借金が含まれる場合の3つの選択肢

亡くなった方の相続財産の調査した結果、借金などのマイナスの財産が残されていた場合、次の3つの対処法があります。

  • 1)単純承認する
  • 2)相続放棄する
  • 3)限定承認する

単純承認とは?

亡くなった方に借金などのマイナスの財産があるものの、それと比べて、明らかにプラスの財産が多い場合には、マイナスの財産を相続しても、それを上回るプラスの財産があることになるので、そのまま相続すればよいことになります。

このように、プラスの財産もマイナスの財産も両方とも相続することを「単純承認」といいます。

単純承認には、特別な手続きは不要で、相続の開始を知った日から3か月以内に家庭裁判所に相続放棄や限定承認の手続きをしなければ、単純承認したことになります。

ただし、単純承認するか、あるいは、相続放棄・限定承認をするか、まだ決めていないのに、相続財産を使ったり(例 被相続人の預貯金を引き出して使う、など)・処分したり(例 被相続人の名義になっている不動産を売却する、など)すると、単純承認したものをみなされてしまい、相続放棄や限定承認ができなくなる可能性がありますので、注意が必要です。

相続放棄とは?

亡くなった方の残した借金などのマイナスの財産が、プラスの財産より明らかに大きい場合には「相続放棄」することができます。

相続放棄をすると、はじめから相続人にならなかったものとみなされて、プラスの財産が相続できなくなると同時に、借金などのマイナスの財産に対しても一切責任がなくなります。

相続放棄の申述の手続きは、自己のために相続の開始があった時から3か月以内に家庭裁判所に対して行う必要があります。

この「3か月以内」のことを「熟慮期間」といい、この期間中に、単純承認するのか、相続放棄(または限定承認)するのか、判断することになります。

相続放棄については次の2つの注意点があります。

注意点1 相続放棄は撤回することができない

相続放棄はいったん申述すると、撤回ができません。したがって、後になってプラスの財産が見つかったような場合でも、単純承認をし直すことができません。

注意点2 相続する権利が他の法定相続人に移る

相続放棄すると、はじめから法定相続人とならなかったものとみなされ、相続に関する権利義務が他の相続人に移ることになります。

その結果、他の法定相続人の相続分が増えたり、法定相続人でなかった親族が新たに法定相続人となることがあります(例 子がすべて相続放棄したため、両親や兄弟姉妹が法定相続人になる など)。

当センターでは、相続放棄のサポートも行っています。詳しくは、相続放棄の手続き代行サービスをご覧ください。

限定承認とは?

借金などのマイナスの財産がどのくらいあるかわからない場合、「限定承認」を選択することもできます。

限定承認すると、プラスの財産とマイナスの財産を両方とも相続しますが、プラスの財産の範囲内でマイナスの財産を返済すればよいことになります。

ただし、限定承認は手続きが難しく、取り扱える専門家も少ないため、実務上ほとんど利用されていないのが現実です。

また、注意点としては、限定承認の手続きは、相続人全員が共同で行う必要があります。

相続人のうち一人でも反対すると、限定承認の手続きはできません。

相続税の計算では、相続した借金は債務控除の対象になります

借金を相続した場合、相続税の計算の上では、プラスの財産から差し引いて計算することができます。

これを債務控除といいます。

債務控除の結果、残りの価額が相続税の基礎控除額を下回れば、相続税はかからないことになります。

まとめ

相続財産には、プラスの財産だけでなく、借金などのマイナスの財産も含まれます。

マイナスの財産がある時は、単純承認、相続放棄、限定承認から1つの方法を選ぶことになりますが、その難しい判断は、原則として、相続開始から3ヶ月以内に行わなければなりません。

当センターのような相続の専門家のサービスを活用して、相続人の調査(被相続人の戸籍が出生まで辿る調査)と同時並行で、相続財産の調査・リストアップを、早め早めに行うようにしましょう。

当センターの相続財産調査・財産目録作成代行サービスについては、こちらをご覧ください。

 

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