遺産の分け方を話し合いで決める遺産分割協議は、法定相続人全員が参加して行う必要があります。
何らかの理由で、疎遠であったり(ほとんど会ったことがない)、面識がなかったり(一度も会ったことがない)、仲違いをしている法定相続人同士であっても、それは同じです。
逆に言えば、これらの法定相続人を除外して遺産分割協議を行っても無効であり、無効な遺産分割協議に基づく遺産分割協議書を提出しても、法務局や金融機関などでは受け付けてもらえません。
では、疎遠であったり、面識がなかったり、仲違いをしている法定相続人がいる場合には、どのように相続手続きを進めればよいのでしょうか。
※以下には、「疎遠であったり、面識がなかったり、仲違いをしている法定相続人」のことを、「疎遠な相続人」と省略して記載します。
このページの目次
疎遠な相続人とは?
兄弟姉妹や甥姪が法定相続人になる場合、または、親子間の相続であっても、被相続人の先妻の子が法定相続人になる場合など、法定相続人同士が今まで一度も(ほとんど)会ったこともなかったり、過去に仲違いをして長年音信不通になっているというケースがあります。
このようなケースを、当サイトでは「疎遠な相続人がいる相続手続き」と呼ぶことにします。
実は、疎遠な相続人がいる相続手続きの場合に、遺産分割協議が不調に終わったり、何年も時間がかかったり、最悪の場合には、相続争いに発展することが多いのです。
このような場合には、さまざまな配慮をしつつ慎重に相続手続きを進める必要があります
疎遠な相続人がいる相続手続きの大まかな流れ
疎遠な相続人がいる相続手続きの場合、以下のような順番で、相続手続きを進めていくようにします。
- ステップ1 相続人代表者を決める
- ステップ2 法定相続人の調査をして法定相続人を確定させる
- ステップ3 相続財産の調査をして、相続財産の内容を確定させる
- ステップ4 疎遠な相続人の連絡先を調べる
- ステップ5 相続人に意向の確認をする
- ステップ6 各相続人の意向の確認を元に、遺産分割協議案を作る
- ステップ7 遺産分割協議書を作成する
- ステップ8 遺産を分配する
ステップ1 相続人代表者を決める
亡くなられた方と、一番近しい間柄である方(1名または数名)が、相続手続きを先導していくというケースがほとんどと思います。
(以下「相続人代表者」と記載します)
ですので、相続人代表者を決める、というよりも、相続人代表者が、自身で相続手続きをリードしていくのだと覚悟を決める、と言った方がいいかもしれません。
以下のステップは、すべて、相続人代表者がリーダー役となって、進めていくことになります。
(そういう作業が苦手だという方は、当センターまでご相談ください)
ステップ2 法定相続人の調査をして法定相続人を確定させる
まず、大前提として、法定相続人が誰であるのか、確定させる必要があります。
法定相続人を確定させるには、亡くなった方の戸籍をさかのぼる調査が必要です。
法定相続人であると思っていた人がそうでなかったり、逆に、思わぬ法定相続人が出てきたりするなど、すべての戸籍をさかのぼってみないと、法定相続人を確定させることはできません。
手書きで書かれた古い戸籍の読み取りは難しく、郵便小為替を準備した上で全国の市町村と郵送でやり取りするなど、法定相続人の調査はカンタンなものではありません。多くの方が、この段階でツマづいてしまいます。
必要なすべての戸籍を取り寄せたら、相続関係説明図(家系図のようなものです)を作成し、法定相続人が一目でわかるようにしておきます。
ステップ3 相続財産の調査をして、相続財産の内容を確定させる
次に、相続財産の調査して、相続財産のリストを作り、各財産の価額を確定させます。
不動産がある場合には、登記事項証明書を取得し、不動産を特定できるようにします。
預貯金口座のある場合は、金融機関名、支店名、口座の種類、口座番号、残高などを記載します。
なぜ、この段階で相続財産を調査するのかというと、大前提として、法定相続人(ステップ2)と相続財産を確定しないと、各相続人の法定相続分が分からず、次のステップ以降で疎遠な相続人に連絡をする際に、「あなたの相続分は○分の○で、価額は○○万円くらいです」と伝えることができないからです。
疎遠な相続人にスムーズに手続きに協力してもらうためにも、最初の段階(ステップ2、3)で、法定相続人と相続財産を確定しておくのです。
ステップ4 疎遠な相続人の連絡先を調べる
ここからが細やかな配慮が必要になってくる段階です。
まず疎遠な相続人に対して連絡をしなければいけません。
そして、「相続が発生した旨」「あなたが相続人である旨」「あなたの相続分は○分の○で、価額は○○万円くらいである」旨を、伝えなければいけません。
そのためにはまず、連絡先を調べる必要があります。
(ステップ2で)戸籍をさかのぼることで法定相続人はわかっても、その方の現住所や連絡先までは戸籍ではわかりません。
したがって、その方の周囲の親戚に聞いてみるなどして、その方の現住所や連絡先を調べます。
周囲の親戚の方でも連絡先がわからない場合は、今度は、その法定相続人自身の戸籍をたどっていくことで、現在の本籍地がわかりますので、その本籍地の市町村役場に「戸籍の附票」をいう書類を発行してもらうことで、その方の現住所を調べることができます。
このように戸籍をたどっていったり、戸籍の附票を取り寄せるのは、一般の方にはハードルが高いので、当センターのような行政書士に代行してもらうとよいでしょう(行政書士は、職務上の権限により、これらの書類をスピーディーに取得できます)
ステップ5 相続人に意向の確認をする
周囲の親戚から教えてもらう、または、本籍地から戸籍の附票を取り寄せ、連絡先の住所がわかったとします。
疎遠な相続人に対して、最初に連絡する時のアプローチ方法が最も重要です。
この段階では、まず、相続関係説明図などを同封し、自分が誰であるかを明らかにした上で、
- ○月○日に、○○が亡くなり相続が発生したこと
- あなたが相続人であること
- あなたの相続分は○分の○で、価額は○○万円くらいであること
- あなたにも権利があるので、意向を確認したいこと
- 送り主の連絡先
など、必要最小限の情報を記載した、1枚の手紙を送るようにします。
ここで、いきなり一方的に遺産分割協議書を送りつけるなどすれば、相手は警戒し、まとまる話もまとまらなくなるかもしれません。
この手紙に対しては、いろいろな反応が予想されます。
- 無視する方(返事がない)
- 法定相続分だけは欲しいという方
- 一切いらないという方
- 相続放棄を希望する方
- 言われた通りにサインするという方
- 不動産はいらないが預貯金は欲しいという方
- 不動産を売却して代金を分けてほしいという方
- 認知症などの病気により意思表示ができない旨のご家族からの連絡
- 弁護士を立てて返答してくる方
などです。
この段階で、すべての相続人が協力的な返答をしてくれればよいのですが、必ずしも全員が協力的であるとは限りません。
協力的でない相続人がいた場合には、その時に対策を考えるしかありませんが、とりあえずは、相続人全員の意向を、取りまとめる作業をします。
ステップ6 各相続人の意向の確認を元に、遺産分割協議案を作る
各相続人の意向が出揃い、全員が遺産分割協議を取りまとめるという方向性で一致したならば、次に、各相続人の意向の反映した遺産分割協議案をまとめる作業に入ります。
相続人の意向には、ある程度妥協的であるものと、逆に、こだわりや要望の強いものがあると思います。
それらを1つの遺産分割協議案にまとめるのは至難の技であり、相続に関する専門的な知識も必要になります。
そのような場合は、当センターの遺産分割協議のサポート(相続人が遠方・疎遠の場合)サービスをご検討ください。
遺産分割協議案が出来たら、各相続人に送付します。
その際には、「これが最終案である」とは言わずに、まだ変更・修正の余地がある旨を伝えるようにします。
(妥協を強いられる相続人への配慮です)
ステップ7 遺産分割協議書を作成する
ステップ5の案で、相続人全員の合意が得られれば、ここでようやく正式な遺産分割協議書を作成し、
相続人全員に実印による押印と、印鑑証明書の提出を求めます。
ステップ8 遺産を分配する
最後に、遺産分割協議書に記載されている通りに、遺産を分配します。
(不動産の名義変更や預貯金の解約・払戻しなど)
疎遠な相続人に相続財産の内容を伝えるべきか?
疎遠な相続人には相続財産の内容をなるべく見せたくないという気持ちはわかりますが、相続手続きに協力をしてもらうには、何よりも誠実さがポイントになります。
何かを隠せば、その態度が相手にも伝わり、警戒心が生まれかねません。
その時点で把握している正確な相続財産リストをつつみ隠さずに公開し、すべてをオープンにした上で、各相続人への配慮を忘れずに進めていく誠実さが、相手の協力的な姿勢を引き出すように思います。
まとめ 疎遠な相続人がいる場合は専門家へご相談を
疎遠な相続人がいる場合には、まず法定相続人の調査や相続財産の調査などの手続きを行い、次に、細心の配慮をしつつ、各相続人の連絡先を調べ、意向を確認し、遺産分割協議案をまとめるという、一般の方が行うにはハードルの高い作業をしなければいけません。
このようなケースでは、相続人同士で直接にやり取りするよりも、行政書士のような中立的な調整役を立てることで、相続手続きがスムーズに進むことが多いです。
疎遠な相続人がいる場合には、ぜひ当センターに最初にご相談ください。
※最初に弁護士を立ててしまうと、逆に、相手に「争いを開始する」と意思として受け取られれ、警戒されてしまいます。弁護士に依頼するのは、最後の手段にしておきましょう。