預貯金口座はほとんどすべての方が所有しているものであり、預貯金口座の名義人が亡くなられた場合、法定相続人や遺言執行者などが、預貯金の相続手続き(払戻し・解約・名義変更)を行う必要があります。

口座名義人が死亡すると預貯金口座は「凍結」されます。

金融機関が、預貯金口座の名義人が死亡したことを知った時(ご遺族からの連絡、新聞のお悔やみ欄、など)、その口座は「凍結」されます。

「凍結」とは、残高はあるのに、払戻し(引き出し)や入金ができなくなることです。

いったん預貯金口座が「凍結」されると、法定相続人が必要書類をそろえた上で相続手続き(解約・払戻し・名義変更)をするまでは、「凍結」されたままお金を出入金することができません(※1)。

預貯金口座の「凍結」を解除するためには、法定相続人全員による遺産分割協議(※2)を行い、その預貯金口座を誰が相続するかを決めなければなりません。

※1 例外的に、以下でご説明する、「遺産分割前の相続預金の払戻し制度」を利用すれば、1つの金融機関につき150万円を上限に、法定相続人1人による単独の請求により、被相続人名義の預貯金口座から払戻しを受けることができます。

※2 遺言書がある場合は、遺産分割協議は必要ありません。

預貯金口座が「凍結」される前ならATMから引き出すことはできますが・・・注意点あり!

口座の名義人が死亡した時点と、金融機関が死亡の事実を知る時点には、時間差=タイムラグがあります。

ご遺族が金融機関に連絡するなど、何らかの理由が無ければ、金融機関は口座の名義人の死亡を知ることができないからです。

つまり、死亡した時から実際に口座が「凍結」されるまでには、時間があります。ということは、口座が「凍結」される前であれば、ATMで預金を引き出すことができるということです。

しかし、正式に遺産分割協議がまとまる前に、安易に故人名義の預貯金を引き出すことはおすすめできません。

故人名義の預貯金は、遺産分割協議が完了するまでは、すべての法定相続人が共有する相続財産だからです。

安易に、他の法定相続人に相談もなく、故人名義の預貯金を引き出してしまうと、勝手に使い込んだと疑われるなど、相続人間のトラブルになる可能性もあります。

当面の生活費、医療費の精算、葬儀費用などのために引き出す必要があることがあるかもしれませんが、その場合も、法定相続人全員と事前に協議して、了解を得ておくようにします。

また、預貯金を引き出すと、単純承認(プラスの財産もマイナスの財産もすべて相続する)したものとみなされて、相続放棄ができなくなる可能性もあります。

当面の資金は「遺産分割前の相続預金の払戻し制度」を利用できる

上記で述べたように、口座の名義人が死亡して預貯金口座を「凍結」されると、正規の相続手続きを行うまでは、預貯金を引き出すことはできません。

しかし、その例外として、令和元年7月1日より、遺産分割前、つまり、遺産分割協議が最終的にまとまる前であっても、当面の生活費や葬儀費用などに困らぬように、法定相続人1人からの単独の請求により、亡くなった方(被相続人)名義の預貯金の一部を金融機関から払戻しを受けられる制度が創設されました。

この制度を「遺産分割前の相続預金の払戻し制度」と言います。

この制度が創設される以前は、当面の生活費や葬儀費用などのために被相続人名義の預貯金の払戻しをしたくても、金融機関は、原則的に、法定相続人全員の同意がなければ、払戻しに応じてくれませんでした。

そのため、当面の生活費や葬儀費用などが必要な法定相続人でも、被相続人に遺言が無かったり、法定相続人全員による遺産分割協議がまとまらないと、いつまでも預貯金を払戻すことができなくなり困ることがありました。

「遺産分割前の相続預金の払戻し制度」が創設されたことにより、このような困った状況に陥る前に、法定相続人1人からの単独の請求により、被相続人名義の預貯金口座の一部を引き出すことができるようになりました。

預貯金の相続手続きにかかる労力と時間は?

預貯金の相続手続きには、専門家以外の一般の方が行う場合には、3~4回程度、口座のある金融機関に行くことになるでしょう。
(ほとんどの金融機関では、口座のあった支店以外の支店でも受け付けてくれます)

最初に死亡した旨の連絡と必要書類の確認のために1回、残高証明書を取得するのに1回、必要書類を提出するのに1回、書類に不備があればもう1回、という感じです。

法定相続人を確定するための戸籍(被相続人の出生~死亡までの戸籍)を取得していない場合には、金融機関の前に、まずこれらの戸籍を集めるところからのスタートになります。この戸籍集めには、数週間~1ヶ月程度(一般的な場合)かかります。

また、書類を受理された時点からも、実際に預貯金が払い戻されるまで1週間~2週間程度はかかります。
(金融機関は二重払いのリスク(金融機関が間違って払戻してしまうと損害賠償しなければならない)を回避するため提出された書類を慎重に審査します)

被相続人が複数の金融機関で口座を作っていた場合、その数だけ金融機関に行かなければいけない回数も増えます。

平日にお仕事をしながら、これらの手続きを進めるのは、なかなか大変です。

預貯金の相続手続きの大まかな流れ

口座の名義人が死亡してから預貯金口座の相続手続きが完了するまでの大まかな流れは以下のとおりです。

※遺言の有無、遺言執行者の有無などにより、また、金融機関により、手続きの方法が異なる場合があります。

ステップ1 金融機関への死亡の通知・残高証明書の取得・必要書類の把握

口座の名義人が死亡したら、通帳やキャッシュカードなどを持って金融機関に出向き、死亡した旨、相続手続きを行う旨を告げます。

そして、死亡時点での残高を把握するため(この金額を基準に、遺産分割協議を行うことになります)、残高証明書を請求します。
(残高証明書は、法定相続人1人からの請求で取得できます)

また、今後の手続きに必要な書類を教えてもらいます。

ステップ2 必要書類のご準備

金融機関に提出する書類は、金融機関により、また、遺言の有無、遺言執行者の有無などにより異なります。必ず金融機関の窓口で確認するようにします。

以下では、典型的な例をお示しします。

遺言書がある場合

  • 金融機関指定の相続届(最初の訪問時に金融機関からもらえます)
  • 通帳・キャッシュカード
  • 遺言
  • 検認調書または検認済証明書(自筆証書遺言、秘密証書遺言の場合)
  • 被相続人の戸籍謄本(死亡が確認できるもの)
  • その預貯金を相続する者(遺言執行者がいるときは遺言執行者)の印鑑証明書

※公正証書遺言、および、法務局で保管されていた自筆証書遺言は、検認は不要です。

遺言がない場合

  • 金融機関指定の相続届(最初の訪問時に金融機関からもらえます)
  • 通帳・キャッシュカード
  • 遺産分割協議書(法定相続人全員の署名・押印があるもの)
  • 被相続人の戸籍謄本(出生から死亡まで連続したもの)、除籍謄本
  • 相続人全員の戸籍謄本
  • 相続人全員の印鑑証明書

ステップ3 必要書類の提出

必要書類をそろえたら、再度、金融機関に出向き、書類を提出します。

ステップ4 払戻し

金融機関による審査が行われ、1~2週間後に、払戻しが行われます。

まとめ 預貯金の相続手続きは専門家にご相談を

このように、預貯金の相続手続きは、

  • 1行あたり3~4回訪問しなければならない
  • 1回の訪問ごとに、待ち時間がある
  • 書類に不備があった場合、再度、訪問して再提出となる
  • これらのすべて平日の日中(金融機関の営業時間)に行わなければならない
  • 戸籍や遺産分割協議書など、必要書類を取得したり、作成したりしなければならない

など、一般の方が行うには、ハードルの高い手続きとなっています。

最初に金融機関に行ってみて、普段は聞き慣れない難しい手続きだとわかり、自分で行うのを諦めて、当センターにご相談に来られる方も少なくありません。

当センターでは、預貯金(銀行、信金、郵便局等)の相続手続き代行サービスを行っています。
(1行の手続きのみでも依頼できます)

また、当センターの相続手続き代行 基本プランの中でも依頼することができます。

 

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